認定特定非営利活動法人 静岡県就労支援事業者機構

協力雇用主の声

「やり直す」覚悟のある人の背を押す

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三宅晶子氏(東京都)

㈱ヒューマン・コメディ代表取締役

アンガーマネジメントファシリテーター

依存症予防教育アドバイザー

静岡県就労支援事業者機構は2020年度に開催した2度の研修会で、ともに三宅晶子氏を講師にお招きしました。三宅氏が2015年に設立した(株)ヒューマン・コメディは、「 “人は変われる”と信じることのできる社会の実現」を目的に、受刑者等の採用支援・教育支援を行っています。2018年3月には日本初の受刑者等専用求人誌『Chance!!(チャンス)』を創刊し、立ち直りを目指す人々、支援する人々のマッチングに尽力しています。その活動はNHKの『逆転人生』『ハートネットTV』等で特集され、大きな反響を呼びました。
研修会では当機構会員に向け、Chance!!掲載企業の活動事例や雇用現場のリアル、協力雇用主としての心構え等を丁寧に解説していただきました。今回は2021年3月2日に開催された第2回研修会での講演内容を編集し、ご紹介します。

令和3年3月2日開催就労支援研修会

令和3年3月2日開催就労支援研修会

若い頃の挫折と発憤

私は新潟のサラリーマン家庭で育ちました。両親は労働問題に熱心に取り組み、勤務先を相手に定年制延長や男女差別反対の裁判を起し、のちに男女雇用機会均等法施行への道筋をつけた社会活動家で、心から尊敬する両親でした。しかし10代の頃はその存在が重く、親への反発もあって不良仲間に入り、家出を繰り返して高校を退学に。病気療養中だった母に報告に行ったときに病室でさめざめと泣かれ、自分の人生が右肩下がりに転落していると実感したものでした。
 お好み焼き屋に就職しながら再起のチャンスを模索する中、自分の挫折をネタに本を書き、公衆の前で講演をする未来の自分を想像し、一念発起して高校に入り直し、23歳で大学に進学しました。卒業後は貿易関係の仕事に就いて語学留学もし、帰国後は大手商社に就職。BtoBの通販事業や社内監査業務に約10年従事した後、人材育成の道を志し、退職を決意。その会社の送別会で忘れられない出来事がありました。
送別会の参加者の中に、うつ病で休職中の社員が復職する際の世話係となった方がいたのですが、別のある参加者が彼に「よくそんなの受け入れたな」「オレなら絶対に嫌だね」と言ったのです。この言葉を聞いて思わずカッとなって口喧嘩になりました。自分のために開いてもらった送別会なので、どうにかその場を収めましたが、帰り道、あまりに悔しくて泣き通しました。彼は冷たい社会の代表のように見えました。その後、折にふれてあの場を丸く収めてしまったことを後悔していましたが、今、この活動を通して、私は、冷たい社会に対して喧嘩を買い続けているのだと思います。

社名「ヒューマン・コメディ」に込めた思い

「誰かの人生の背中を押せる仕事がしたい」・・・そんな思いで、まずは人生に課題や生きづらさを抱えている人と数多く接し、実情を知ることが大事だと考え、問題の多い子供たちを受け入れる自立支援施設や受刑者支援のNPO団体を訪ね、ボランティアをしながら、そこにいる方々とお話をさせて頂きました。そこで、出所者が仕事を得るために最低限必要な住所や携帯電話を持つことすら難しく、仕事を見つけることができないまま僅かな所持金を使い果たすと、生きるために自ら些細な事件を起こし、望んで刑務所へ戻る・・・そんな現状を知り、出所者の社会復帰がいかに難しいかを痛感しました。
 奄美大島にある自立支援施設で仲良くなった17歳の少女が、私がボランティア期間を終えて東京に戻った後で少年院送致となりました。彼女は17年生きてきたうち15年間を施設で過ごしていました。両親は健在ですが完全な育児放棄。奄美の施設はとてもいい施設でしたが、彼女にとっては悪いことばかりしていた場所。そこに戻るほか彼女には選択肢がありませんでした。私は彼女ともっと深くかかわりたいという思いから、私が身元引受人になることを提案し、どちらを選んでもいいことを伝えると、彼女は私と一緒に暮らすことを選択しました。そしてそれをきっかけに、彼女と同じような境遇の人々が、過去を隠さず、仕事や住まいを得ることができる支援を仕事にしようと、彼女の誕生日に思い立って株式会社ヒューマン・コメディを設立したのです。社名は、〈人生を喜劇に。失敗や間違いをしてしまったとしても、それをネタにして、笑って死ねるように生きる。ネタにしてはいけない過ちを犯してしまった人も、そこから目の前の人を笑顔にするように一生懸命生きて、最後に笑って死ねたら、それは喜劇になる〉という思いを込めて命名しました。

求人誌Chance!!の挑戦

出所者対象の職業紹介事業は難問山積でした。事業を始めて1年半で、面談ができた方は20人程度。そのうち内定をもらえたのはたったの6人で、就職後は離職者・逃亡者続出という状況でした。そんな中、何人かの出所者から「刑務所にハローワークの求人情報が掲示されていたが、見てもよくわからないので気にしていなかった」という声や「ハローワークで採用されたが、行ってみたら超ブラックな企業で、嫌になって飛び出してお金に困り、再犯してしまった」という声をききました。また、求人する企業側からは、通常よりもリスクの高い出所者への雇用にあたり、ハローワークからは事前情報やアドバイスがない。せめて罪状くらいは教えてほしい」という声を聞いていました。そこで、求人誌の制作を思いついたときに、双方の声を反映させ、課題を解決できるものを作ろうと思いました。
 求人誌Chance!!は2018年3月に創刊しました。誌面には出所者の経歴を包み隠さず書く履歴書を付けています。直近で起こした事件を、本人がどのようにとらえているか、他人や環境のせいにしているのか、あるいは自分の責任と受けとめているのかが、そこから見えてきます。
求人企業の掲載にあたっては、こちらから“営業”はせず、掲載を希望する企業に、最低限お願いしたい条件を提示し、代表者には私が直接お話をうかがって掲載の可否を決めています。掲載後に何か問題が発覚した企業については、次号より掲載中止の措置を取ることとしました。

受刑者向け求人誌Chance!!

雇用主に求められるもの

創刊からこれまで648件の応募があり、126人が内定をもらいました。このうち、内定した企業で就労している人は32人、離職した人が29人、行方不明者が17人、再逮捕が64人、出院・出所を待っている人が42人です。
就労定着率の高い企業の特徴はアットホームで、社長が社員の話に日頃からよく耳を傾ける社風だということ。社長自ら手料理で社員に食事をふるまったり旅行に連れていったり、週に1度は社長が社員寮を巡回し、生活に困ったことや不平不満がないか、孤独になっていないか気を遣う会社もあります。
心ある雇用主の多くは、採用した対象者を「覚悟を持って懸命に働く」「一般の人よりも真面目に働く」と評価し、“待つ”“許す”度量があると感じています。何かあったとき、責めたり反省を促しても、決して良い効果にはつながりません。ただ、寄り添い過ぎて依存させてしまっても良い結果にはなりません。私自身も、常に自分の言動が、相手の自立の背を押しているのか邪魔しているのかという視点を持つようにしています。

立ち直りの背を押すために

人が集団で生活し続ける以上、この世の中から犯罪が無くなることはないのだと思います。集団行動をする生き物には、262の法則という法則があって、よくミツバチで喩えられますが、全体の2割が意欲的に働き、6割が普通に働き、残りの2割が怠け者になる傾向が高いといいます。実際にある少年院でおこなったことですが、その施設でもそのような割合で優秀層と普通層と問題行動を起こす層があり、少年院全体の質を上げるために問題行動を起こす2割の少年たちを他の少年院に移送したところ、それまで優秀層と普通層にいた少年の中から次々と問題行動を起こす少年が出始め、最終的にまた2:6:2のバランスとなったということです。なぜこのようなバランスが必要なのかと考えたときに、私は人が善悪を知って善い行いを選択するために、悪い行いをする存在が必要だからなのではないかと思っています。かつては私自身も下の2割に含まれていました。今は自分の代わりに彼らが悪いことをしてくれているのだと思っています。
社会では、失敗や間違いをゆるさず抹殺しようとする風潮がどんどん高まっていますが、犯罪の背景には、貧困や虐待などがある場合が非常に多く、自分が彼らと同じ環境だったらどうだったかという想像力が大事ではないかと思います。また、何かの拍子に生活が一変してしまうことは誰にでも起こり得ることです。ある日病気や事故や天災で働けなくなったら、家賃を払えなくなったらという想像をしてみること。そして、自分が当たり前の日常を過ごすことができ、犯罪をしなくてすむ環境にいられることに感謝することが大事なのだと思います。
対象者には「目の前の出来事はすべて自分の選択だと捉えることができたら、人生は切り拓ける」と伝えています。また、「もし仕事が合わなければ辞めていい。ただ、辞めるときにはお世話になったお礼と、ご恩を返せずに辞めることのお詫びをきちんと伝えて、笑顔で再会できる形で辞めましょう。そうすればいいご縁ができるようになり、いい仕事が見つかるようになります」と伝えています。
 就労定着のためには、本人の教育環境を整える支援が必要であり、今後、当社も教育支援に力を入れていきたいと思っています。失敗や過ちをゆるし、受け入れることのできる社会を目指して、ひとつずつ前に進めてまいります。

㈱ヒューマン・コメディの詳細はこちらを。
https://www.human-comedy.com/

鈴木真弓

インタビュー・文・写真/鈴木真弓

フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は地酒、農業、禅文化、福祉ほか

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