認定特定非営利活動法人 静岡県就労支援事業者機構

協力雇用主の声

令和5年度甲府刑務所ワークフェスタ「就労支援検討会」レポート

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静岡地区協力雇用主会・中部ブロック協力雇用主会

「就労支援検討会」実施日:令和5年8月23日  参加人数:29名

就労による立ち直りのため、刑務所の職業訓練に求めること

2023年8月23日、山梨県の甲府刑務所で開催されたワークフェスタ「就労支援検討会」に、静岡地区を中心とした協力雇用主会会員28名と井口弓子機構事務局長が参加しました。半日にわたって刑務所内の見学、関係機関のレクチャー、山梨県北西地区協力雇用主会や同県機構との合同意見交換会が行われ、就労支援にかかわる関係者が一堂に会しての中身の濃い研修となりました。

甲府刑務所とは

甲府市の郊外に位置する甲府刑務所は、おもに26歳以上で刑期10年未満の男性受刑者を収容しています。収容定員は600名。2023年8月時点で395名が在所しており、罪名としては覚せい剤取締法違反が38%、窃盗罪が32.8%、交通違反8.9%等。平均年齢は51.7歳で最年少は22歳、最年長は84歳。入所経験が2回以上(平均4,78回)とやや犯罪傾向が進んでいる中高年が多く、最近では外国人受刑者も増えているようです。
 日常生活は朝6時40分に起床し、7時40分から16時20分まで法令に基づく所定の作業に従事し、21時に就寝。刑務所職員は作業指導のみならず、受刑者の改善更生と円滑な社会復帰のため、改善指導や教化指導に注力しており、令和4年度は仮釈放となった受刑者が全体の51.6%と半数を超えました。

甲府刑務所/山梨県甲府市堀之内町500 TEL 055-241-8311

コレワーク(矯正就労支援情報センター)の活動

 一行は、刑務所内で実際に受刑者が作業する様子や居住スペースを見学した後、各関係機関の取組みについて説明を受けました。
 「コレワーク」は、全国各地の矯正管区に置かれた矯正就労支援情報センターの通称。平成28年から法務省直轄の支援事業としてスタートし、令和2年までに全国8管区(札幌、仙台、東京、名古屋、大坂、広島、高松、福岡)で活動しています。事業はおもに3つ=①雇用情報提供サービス(人材マッチング)、②採用手続支援サービス(矯正施設での採用手続きを支援)、③就労支援相談窓口サービス(支援制度紹介や矯正施設見学会等を案内)を提供しています。
 このようなサービスが必要にとなった要因は、近年、受刑者の増加によって刑務所の収容能力に懸念が生じ、出所後の就労支援体制の整備・充実が急務となったこと。甲府刑務所に収容されるのは山梨県出身者とは限らず、出所後に就労を希望する地域もそれぞれですから、都道府県をまたぐ形で受刑者・在院者の資格や職歴、帰住予定地等の情報を一元管理し、雇用主の求人に結びつけるしくみが必要となるわけです。
 平成28年のスタート時から令和5年3月までの相談件数は全国で11,490件。うち就職内定者数は1,606人。静岡県の相談件数は直近3年間で右肩上がりとなっており、コレワークを活用して受刑者等を積極的に雇用しようという事業主が増加傾向にあります。
コレワークとしては今後さらに内定や職場定着の増加に向け、雇用支援セミナーや雇用支援アドバイザーによる個別相談会等に注力するとのことでした。
*問合せ先(フリーダイヤル)0120-29-5089 *受付/平日10時~17時

甲府保護観察所~就労による立ち直りを支えるために~

受刑者の立ち直りを個別に支える保護観察官や保護司の役割や就労支援状況について、甲府保護観察所統括保護観察官の長岡知恵氏からお話がありました。
協力雇用主は全国で約2万5千社(令和3年10月1日時点)が登録されており、刑務所出所者等就労奨励金(年間最大72万円)の支給や身元保証制度(出所者から損害を被った場合、最大200万円の見舞金支給)等の支援対象となっています。支援を受けるには保護観察所の登録が必須であり、今年度からは雇用保険加入等、労働法規の遵守も厳しくなりました。
 出所者の雇用にあたっては雇用主側にも相応の心構えが必要となります。一般に、就労に困難を抱える人は自己肯定感が低く、成功体験の乏しさから何事もあきらめやすく無計画になりがち。心の不安のみならず身体機能も万全ではなく体力不足や体調不良を抱え、自分から周囲に相談したり、助けを求めることも苦手な傾向にあります。
そのような対象者の立ち直りを支えるためには、担当保護司や保護観察官と連携し、情報共有を図りながら対応していくことが肝要です。説明担当者は「前科・前歴のある人としてステレオタイプで決めつけず、一人ひとりの個性や事情を理解し、信頼関係を築いてほしい」と力を込めます。

これからの刑務所について~刑法一部改正を踏まえて~

甲府刑務所首席矯正処遇官の小池走野氏からは、再犯防止に重点を置いた刑法一部改正を受けての刑務所の取組みについて説明がありました。
 令和4年6月、再犯防止を大目標に一部改正された刑法では、懲役(作業あり)と禁錮(作業なし)に分かれていた刑罰の種類が拘禁刑に一本化。必要な作業を行わせ、改善更生を図ることとなりました。〈受刑者は刑事施設に収監し、改善更生の働きかけを図る〉と明確に定められたのです。
改正にあたり、刑事施設での作業について、協力雇用主から「仕事をする上でのチームワークや円滑なコミュニケーションの大切さも教育してほしい」「指示待ちという刑務所における癖が身に付いてしまっている」、有識者からも「単に作業だけできるようになればいいのではなく、自分が問題に対してどう対処するかを学ぶ必要がある」「自己判断を行う訓練を刑務所内でも実施してほしい」といった意見が寄せられていました。
これらをふまえ、就労や、就労後の職場定着に向けてコミュニケーション能力や課題解決能力を身に付ける必要がある受刑者に向け、事業部見越作業(注文に応じて製品を製作する受注作業)の導入や、民間企業の生産現場をイメージした工場運営等が図られることとなりました。
受刑者が抱えるさまざまな問題点を改善することで、社会で必要とされる人材への育成を目指す改善更生計画。受刑者自身が社会の中で自分の「出番」や「居場所」を確保できる環境づくりを、さらに推し進めていきます。

山梨県北西地区協力雇用主会、山梨県就労支援事業者機構、各関係機関とのグループセッション

刑務所内見学や各種説明をふまえた上で、矯正施設の職業訓練や刑務作業について、フェスタ参加者全員がAからEまで5つのグループに分かれて意見交換を行いました。グループ毎のおもなテーマや意見を抜粋します。

【グループA/受刑者の扱いへの要望】
〇最初はとても不安で、自分がどんな眼で見られるのかビクビクしている。支援者の存在をしっかり伝えてあげて欲しい。
〇周囲の目が気になるのは、刑務所内の自分の扱われ方に起因しているから。
〇人とのコミュニケーションの取り方や付き合い方について教育してあげてほしい。自分の中にある優しさや心の柔らかさを認識できる人間教育を。

【グループB/刑務作業の改善点】
〇見学時、我々のような第三者の目の前でも入れ墨を隠さず作業する受刑者がいた。社会に出たとき、必要に応じてきちんと隠せるか念押しが必要。
〇運転免許は必ず必要になるので取得できるようにしてほしい。パソコン操作のスキルも重要。
〇出来る限り、本人がやってみたいという作業をやらせてあげてほしい。

【グループC/職業マッチングについて】
〇個人作業か共同作業か、自分がどちらに向いているかを考える機会を。
〇刑務所内にも社会に近い環境を作り、疑似体験ができるといい。
〇専門職の指導が月に1~2回でもあったらいい。職業を身に付ける価値や必要性、職業人として社会で生きる意義を考える機会をつくってほしい。

【グループD/雇用主側が求める人材】
〇少年院では福祉専門官が介護や福祉の職業訓練を行っている。刑務所でも介護の資格を取得できるといい。高齢者を世話する介護の仕事は、高齢受刑者の職業選択として有望。
〇建設現場の人材は7割が高齢者。元気な高齢者なら雇用する方も使いやすい。
〇企業側は即戦力を求めている。普通運転免許はもちろん、中型、大型も取得できるといい。

【グループE/社会が求める人材】
〇刑務所内の指示待ちに慣れてしまい、言われなければやらない、言われたことしかやらない人が多い。指示に従うことは悪いことではないが、サービス業では逆効果になることも。
〇在所中に就職面接もしくは面接訓練ができるといい。面接までこぎ着けた人には、在所中できるだけ声掛けフォローをしてあげてほしい。刑務所職員の「頑張ったな」のひと言が大きな励みになる。*静岡では刑務所内で面接指導を実践中。
〇出所者に対し、雇用主側は福祉的観点で生活全般を受け入れる覚悟が必要。

セッション後、各グループの代表が意見集約と発表を行い、課題の抽出や解決に向けての考え方、取組み方の共有化を図りました。協力雇用主の本音を、矯正施設や就労支援機関側に直接伝え、意見交換ができたことは非常に有意義だったと思われます。
閉会後は作業製品のプチ即売会に参加し、甲府刑務所自慢の質の高い革製品(バッグ、靴、小物類)を記念に購入。会員同士の交流にもつながった充実の研修旅行となりました。

鈴木真弓

インタビュー・文・写真/ 鈴木真弓

フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は、地酒・農業・禅文化・福祉ほか

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