認定特定非営利活動法人 静岡県就労支援事業者機構

協力雇用主の声

総合病院機能を持つ矯正施設・東日本成人矯正医療センター

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令和7年度静岡地区協力雇用主会矯正施設視察研修レポート

研修実施日:令和7年10月16日

 静岡地区協力雇用主会が毎年度開催する矯正視察研修会。今年度は10月16日に23名が東京都昭島市にある東日本成人矯正医療センターを訪問し、他の矯正施設では実施できない高度医療を担うセンターの取組み等をうかがいました。(同行取材レポート/鈴木真弓)

 東京都昭島市と立川市の間に広がる国営昭和記念公園のそばに、東京ドーム2.5個分という広さの『国際法務総合センター』があります。敷地内には3つの矯正施設(東日本成人矯正医療センター、東日本少年矯正医療・教育センター、東京西法務少年支援センター)、3つの研修施設(矯正研修所、国連アジア極東犯罪防止研修所・法務総合研究所国際協力部、公安調査庁研修所)の6行政機関が集積し、※PFI事業による民間ノウハウを導入して、効率的な施設運営を行っています。
 とくに3つの矯正施設は病院機能を持ち、医療リソースを集約して高度な矯正医療を提供しています。その中核となるのが、今回訪問した東日本成人矯正医療センター。全国の矯正施設から専門的な医療を必要とする患者を受入れる矯正医療施設です。
※PFI…公共施設等の建設・維持管理・運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う事業手法

米軍基地跡地に整備

 研修ルームに案内された一行は、田澤宏明矯正副長より概要説明を受けました。
 センターの開庁は明治11年(1878)にさかのぼります。前身は神奈川県監獄八王子支署として誕生し、昭和2年(1927)に八王子少年刑務所として独立。戦後の昭和26年(1951)に八王子医療刑務所に改称され、昭和54年(1979)からは女子疾病受刑者の受入れを始めました。
 平成19年(2007)、法務省が昭島市と東京都に対し、米軍基地跡地の有効利用を要望し、翌年、昭島市が受入れを表明。平成24年(2012)に国際法務総合センターの整備工事が始まり、平成30年(2018)1月、東日本成人矯正医療センターとして開庁しました。
 センターは敷地面積約5.5万㎡に庁舎棟、エネルギー棟、管理・医務病棟、診療棟、体育館等が整備され、収用定員は580名。内科、外科、精神科を中心に合わせて12の診療科目を持ち、MRI、CTスキャナ、超音波診断装置、人工透析装置等の医療機器や薬剤等を用いて治療とリハビリを行っています。また専門医による外来診察、血液の生化学検査、他施設への往診等も行い、矯正施設間の医療共助に努めています。

深刻な病態がほとんど

 センターに入所するのは、治療に専念しなければならないP(身体疾患)とM(精神疾患)の指標が付いた初犯、累犯、暴力団、長期刑、外国人、女子、高齢者等、さまざまな受刑者。刑の分類に関係なく、疾患の指標のみを条件に受け入れています。
 総合病院での治療が必要な重い病態の患者がほとんどで、刑期満了が近付いてもすぐに退院できない受刑者もいます。女性の場合は摂食障害を抱える受刑者が多いそう。全体で平均入院日数は200~300日とのことです。令和6年度の入出所件数は、入所299件、出所294件。医療共助は581件でした。
 センターは准看護師養成所(全日制)を併設しており、全国の矯正施設から希望をふまえて選抜された職員を医療従事者として育成し、全国の施設に送り出しています。矯正医療施設の看護師は、刑務官との連携を図りながら疾病の早期回復に努めます。

民間活力による効率的な運営

 概要説明の後、センター内を視察しました。
 まず地下1階のリネン室と給食室。PFIによる民間活力の導入で、専門の事業者が効率的に運営しています。
 リネン室では寝具は水溶性ランドリーパックに入れ、パッキングしたまま洗濯できます。シーツも自動アイロン折たたみ。幸いにもコロナ禍前からの導入だったため、コロナ禍には大いに威力を発揮したそうです。
 給食室では新調理方式ニュークックチルを導入しています。セントラルキッチンで製造されたチルド料理を専用の加熱機器で器ごと再加熱し、短時間で適温の食事を提供できる方式で、7日間の保存可能。非常食にも活用できます。スタッフは働きやすい9~17時勤務で、他の矯正施設の給食室に比べ、明るく広い印象でした。
 PFIは他に警備保守、電子カルテ、薬剤、人工透析のセクションにも導入され、機能的かつ効率的な運営を行っています。田澤氏も「国の運営では予防の観点が低く、自動車保険でいう任意保険もない。建造物は50年保つよう設計しているが、施設運営に関しては民間事業者のノウハウに学ぶことが多い。」と語ります。

矯正医療施設ならではの特徴

 地上1階は外来病棟とリハビリテーション室。外来の待合室は受刑者同士が顔を合わせないよう1人ずつ衝立で仕切られ、外から鍵がかかるようになっていました。年間で600件程度の利用があるそうです。
 リハビリ室は、八王子時代は畳の部屋だったそうですが、現在は一般の医療施設と同等の規模で、午前中は作業療法士が、午後は理学療法士が指導にあたります。当然ながら、治したいという本人の意欲が最も大切ですが、屋外で園芸作業が出来る程度の回復に至れば、外の矯正施設への転院も。各療法士は「刑務所に入ってもリハビリが受けられる、自力で歩いて出所できると希望を持ってもらいたい。」と機能回復訓練に臨みます。
 2階は手術室。令和6年度の手術件数は89件で、内訳は外科35、眼科1、口腔外科5、婦人科4、泌尿器科18、整形外科5、その他12でした。術後ケアが重要な心臓手術と脳疾患手術は行っていないとのこと。局所麻酔で行うことが多い白内障手術は、保安上から全身麻酔で行うなど、矯正医療施設ならではの方法を採っています。

入所者は“長く居たくない、早く出たい”

 入院病棟はすべて個室で、各部屋には収用棚がなく、スーツケースを活用します。急変に対処できるよう処置灯と非常電源を完備。感染病棟では気圧を低くし、中の空気が外に漏れない工夫がされていました。コロナ禍の3年間では外の矯正施設で40数名のコロナ患者が発症し、ここで受け入れました。1人の受刑者が外部の一般医療施設で治療を受けるには、少なくとも6人の警護が必要となるため、感染症が蔓延するようなケースでは、より一層、矯正医療専門の施設が必要となるわけです。
 田澤氏は「すべて税金でまかなわれる、好待遇の治療環境に見えるかもしれませんが、病棟はすべて個室でテレビもなく、他者との関わりがほとんどないため、入所者の多くは、一刻でも早く出たい、長く居たくない、と言います。我々としても、本人には前向きな気持ちで回復に努めてもらい、社会に居場所を見つけ、納税者になってもらいたい。」と力を込めます。
 全国で医療専門施設の指定を受けた矯正施設は、東日本成人矯正医療センター、大阪医療刑務所、北九州医療刑務所、岡崎医療刑務所の4施設。さらに医療重点施設としては札幌刑務所、宮城刑務所、府中刑務所、東京刑務所、名古屋刑務所、大阪刑務所、広島刑務所、高松刑務所、福岡刑務所があり、その下に一般の刑務所という階層的なシステムで、限りある予算や資源を有効活用し、全体として効果的な医療を行っています。
 東日本成人矯正医療センターは、このシステムの頂点に位置し、日本の矯正医療を牽引していくことでしょう。

鈴木真弓

インタビュー・文・写真/鈴木真弓

フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は地酒、農業、禅文化、福祉ほか

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